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 「手あぶり猫」作家本間文江のエッセイ集

このページでは「手あぶり猫」の作家である岩手県の若手陶芸家本間文江さんが
河北新報夕刊の文化欄「微風 旋風」に連載したエッセイをご紹介しています。

冬が終わる(2008年2月26日掲載)

 立春、雨水、二月の暦に記された文字に、暖かさを感じてほっとする。もうすぐ冬が終わるのだと思う。

 冬の間、私たちは屋内で仕事をする。山々の紅葉が終わる頃になると、急いで窯の燃料となる薪を整理してしまい、外仕事はしばらく休みになる。その分、家の中で土と向き合う時間がたっぷりできるのだが、寒さが辺りを包み囲み、仕事がつらく感じる季節でもある。

 私は寒さが苦手だ。朝、仕事場がはるか遠く感じる。冷えて、やけに音の響く仕事部屋、そしてひんやり冷たい粘土が私を待っている。私はくじけそうな気持ちを振り払うように、いつもより長く感じる道を、背中を丸めて駆けていく。

 部屋がすっかり暖まってしまうと、私の好きな時間に変わる。ストーブの上のやかんがチンチンと沸騰する音を聞きながら、土を捏ねていられる時間が好きだ。雪の降る日はとても静かで、世界中がやかんの奏でる音だけになってしまったのではと思う。私の小さな作業部屋は暖かく、守られた空間になるのだ。

 夕方、ストーブの火が消えると現実に戻る。闇に助けられ力を増した寒さが、もう、すぐそこにいることに気付き、心細くなる。私は、夜の寒さで作品が凍らないようにして、足早に家に戻る。

 夜の冷え込みは、私たちの一番の敵だ。油断したところを見透かすように入ってきて、よく乾いていない作品を凍らせてしまう。子供の頃に、「やられた」と言って肩を落とす父の姿をよく見たが、その頃は正体が寒気とは知らず、山から下りてきた得体の知れない何者かが、父の作品に冷たい息を吹きかけて凍らせていくのだと思っていた。子供の頃持った、寒さへのイメージが、今になってよみがえり、なんとなく不安にさせられるのだ。

 二月も終わりに近づき、ためらいがちに頭を出していたふきのとうが、ぐっと背伸びをした。西の空では、太陽が少し長居をするようになった。もうすぐ冬が終わる。

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