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 「手あぶり猫」作家本間文江のエッセイ集

このページでは「手あぶり猫」の作家である岩手県の若手陶芸家本間文江さんが
河北新報夕刊の文化欄「微風 旋風」に連載したエッセイをご紹介しています。

フライブルクにて(2008年4月8日掲載)

 父の仕事をすると決めたものの、自信がなく、ふわふわしていた。外に出たら何か見つかるかしら。私の消極的な希望は言葉に出してみると、坂道を転がり落ちる雪玉のように、あっという間に大きく膨らんだ。そして私は、知人の陶芸家を頼り、ドイツに行くことになった。

 私は、スイス国境近いフライブルクという町で暮らすことになった。温暖で日照時間が長い地域で、渡航した五月の後半は晴れの日が続き、町の中は陽気だった。初めてのドイツには、語学が堪能な妹が心配して付いてきたが、明るい町の雰囲気に安心し、「じゃあね」と手を振り、あっさり帰ってしまった。からっと晴れた空の下、妹を見送ると、まだ坂の上に取り残されていた私の気持ちは、ようやく坂を転がり、音をたててドイツに落ちたように感じた。

 フライブルクは、古い建物が多く残る美しい町だった。町中には石畳が敷き詰められ、スニーカーで歩くとでこぼこが気持ちよく感じた。所々に小川が走り、山からの冷たい水が流れている。よそから来た者がこの小川に落ちて足をぬらすとフライブルクから出られず、永住するという話を聞いた。

 町の中心には泉がわき、そこから十字に道が伸びていた。道を少し奥に入ると急に視界が開け、大聖堂が威厳を持って建っている。その下では毎日、市が立った。春は店先に白アスパラが並んだ。親指ほどの新鮮なアスパラは、摘み取られたことに気付かず、穂先までぴんとしている。私は季節の新鮮な野菜を見るのが好きだった。

 大聖堂の裏側には旧市街が広がる。その一角に、いつも大勢の人でにぎわう地ビールの店があり、寂しくなると出かけていった。少し濁ったビールは甘みがあり、渇いた胃の中に心地よく落ちると、元気がわいた。

 フライブルクで語学学校に通いながら、知人の陶芸家を訪ねた。ドイツの陶芸をたくさん見た。また、ドイツ人の目を通して日本の陶芸を見ることができた。困ったことがあると町を歩き、ビールを飲んだ。フライブルクは流れる小川に足をぬらしたくなる町だった。

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