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焼き物/陶器/陶芸作品の販売 >> 本間文江 >> エッセイ >> 坂の上に響く高校

 「手あぶり猫」作家本間文江のエッセイ集

このページでは「手あぶり猫」の作家である岩手県の若手陶芸家本間文江さんが
河北新報夕刊の文化欄「微風 旋風」に連載したエッセイをご紹介しています。

坂の上に響く高校(2008年5月20日掲載)

 思いがけず、四月から、宮城県本吉町の高校で非常勤講師としてお世話になることになった。本吉町は隣町だが、県をまたぐせいか、出掛ける機会が少なく、街の様子をほとんど知らなかった。ただ一度、校門坂の前を通り過ぎたことがあり、高校があることを知っていた。響高校という名から、りーんと澄んだ音のような空気を感じて、坂を見上げたような気がする。そんな小さな興味は、すぐに胸の奥底にしまわれ、すっかり埋もれていたが、この春、再び出会うことになった。

 工芸の時間の中で、陶芸を教えることになったのだ。坂を見上げたとき、学校には陶芸のための立派な施設があり、小さな興味は何かを予感していたのかもしれない。坂の上の敷地はとても広く、きれいに整備されていた。初めての印象と変わらない空気がそこにあるように感じた。

 私の家から本吉までは、車で三十分ほど、山に囲まれた道を海に向かってすいすい滑るように行く。途中、のんびりと道を横断する猫がいて車を止めたりと、のどかな道だ。

 本吉は海のある町。高校からは見えないが、窓を開けると時折、ウミネコがみゃあと鳴いて、あっ、と思う。町役場の横の急な坂を上っていくと、思ったより近くに海はある。視界に海が広がると、私は年も忘れてはしゃぎたくなり、同時に何かにしがみ付きたいような気持ちになる。私は海に憧れと畏怖(いふ)を持っている。見えないけれどそばに感じる学校から海までの距離は、なんだかとても好ましく、ウミネコが鳴くたびに、坂の向こうの海を思う。

 一ヶ月が過ぎ、ようやく自分の居場所を固めたころ、響高校の澄んだ音は色をなし、少しずつだがさまざまな響きを聞くようになった。私が出会った生徒は、いろいろな方法で自ら響こうとしているようだった。ほかに見えないような、さまざまな種類の授業があって、先生もまたたくさんの音を出していた。生徒たちは、いろいな音を聞いて、共鳴するものを見つけていくように思えた。

 私は陶芸を通して、心に響く音を作ることができるだろうか。響高校で、響く私になりたいと願っている。

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